酒米栽培

山田 豊樹(S7収穫)

松久 日出成(S7収穫)山田 豊樹(AMS18収穫)

揖斐の誉 詳細

酒造好適米新品種「揖斐の誉」の育成              高橋 宏基
 
摘要:「揖斐の誉」は2014年に岐阜県揖斐郡大野町において育成した酒造好適米水稲うるち品種である。その来歴、特性は次のとおりである。

1 本種は、2004年に、「AMS17」を母本とし、「モチミノリ」を父本として交配した後代系統から育成した品種である。
2  2006年、F2集団という早い世代で個体選抜を実施し、その後、系統育種法に従って選抜固定を進めてきたものである。          
3  本種は、熟期が「ハツシモ岐阜SL」より8日早い中生のうるち種で、草型は偏穂重型に属する。        
4  千粒重は27g程度と大きく、心白は酒造好適米「ひだほまれ」と同等の発現率ながら中心にコンパクトに存在することから、醸造適性は「山田錦」と同様に高いと考えられる。
5  病害については、「モチミノリ」に由来する縞葉枯病抵抗性を有すると考えられる。
6  本種は、本県温暖地平たん部の普通期栽培地帯に適する。 
  
‘Ibinohomare’: A New Rice Cultivar for Sake Brewing
TAKAHASHI Hiroki
 
Abstract :  A new nonglutinous cultivar for sake brewing ‘Ibinohomare’ was developed in 2014.  The pedigree and characteristics of this cultivar are summarized as follows.
1. The breeding of ‘Ibinohomare’ was started in 2004 by crossing ‘AMS17’ and ‘Mochiminori’.
2. The individual selection was performed on the F2 population planted in a paddy field in 2006.
Since then , the pedigree method has been applied for breeding work.
3. ‘Ibinohomare’ belongs to the medium maturing group,8days earlier than ‘Hatsushimo Gifu SL’.This variety is panicle weight type and resistant to lodging.
4. The Decorticated grain weight of 1000 is high.  The white cores size in the kernel of this variety are smaller than those of ‘Hidahomare’. Furthermore ,it has an excellent apparent grain quality.Sake produced using the cultivar tastes as good as that brewed from ‘Yamadanishiki’.
5. This variety has remarkably high resistance to rice stripe disease.
6. This variety is well adapted to cultivation in fertile or semi-fertile paddy field in the plain regions of Gifu Prefecture.  
 

Ⅰ 緒 言 
 岐阜県における酒造好適米の作付面積は、県下66酒造会社の使用量がピークだった1995年には289haの作付けがあったが、その後、日本酒需要の低迷もあり、作付面積は減少を続け、2014年産において約150haと、本県の中山間地域を対象に1981年に奨励品種に採用された「ひだほまれ」の最大普及面積360haの半分以下にまで減少している。 近年、県内の酒造業界においては、消費者ニー
ズである食の安全・安心及び地産地消の気運の高まりをとらえ、生産者と酒造メーカーが契約栽培等で連携し、酒造好適米を地元で生産・利用した清酒製造が行われるようになっている。しかし、現在、県内飛騨地域で作付けされている本県育成の唯一の酒造好適米品種「ひだほまれ」は、美濃平坦地では8月上旬~下旬の出穂期以降の登熟期間が夜間を含めてかなりの高温となることに加え、秋の降雨により高品質な酒造好適米生産は困難で、高品質の酒米生産は期待できないのが現状である。また、「ひだほまれ」は心白が大きいことから主に本醸造酒用(70%精白)として利用されており、精白歩合の高い吟醸酒(精白歩合 60%以下)、大吟醸酒(精白歩合 50%以下)用としては不適である。そのため、付加価値の高い吟醸酒、大吟醸酒の地域ブランド酒製造に対し、「山田錦」に近い醸造適性を持ち、かつ本県美濃平坦地に適する栽培特性を有する品種が切望されていた。
 この度、水稲の現地生産者並びに揖斐郡大野町の酒造業者の協力により、岐阜県美濃平坦部に適した栽培特性と高い醸造適性を有する酒造好適米新品種「揖斐 いび の 誉 ほまれ 」を育成した。「揖斐の誉」は、「ひだほまれ」と比較して、
粒大はやや小さいものの、心白発現率は同等で、その大きさはコンパクトで高度精白が可能である。また、「ひだほまれ」と同様に耐倒伏性に優れ、更に、本県平坦地向け糯の奨励品種「モチミノリ」に由来する良好な草姿と縞葉枯病抵抗性、高い登熟性を有し、栽培適性が高い。今後は、本醸造酒から吟醸、大吟醸酒まで美濃平坦地域に適する県産酒米の生産が可能となり、本品種を利用した新酒の開発等による産地活性化が期待される。
 以下に、その育成経過と品種特性を報告する。 
  
Ⅱ 材料及び方法
 
1 育種目標 
「山田錦」由来の優れた醸造適性と強稈で耐倒伏性を併せ持つ「AMS17」に、「モチミノリ」の持つ縞葉枯病抵抗性並びに高い登熟性を付与することにより安定生産と、高搗精を可能とするコンパクトで高い心白発現率を有する酒造好適米品種の育成を目標とした。  
2 試験方法 
生産力検定は稚苗機械移植で実施した。また、生産力検定、特性検定ともに、「ひだほまれ」を対照品種とし、交配母本である「AMS17」並びに当地の一般的普通うるち種「ハツシモ岐阜 SL」を参考品種として揖斐郡大野町及び本巣市において試験を実施した。また、醸造適性に関する試験は、杉原酒造株式会社に依頼し実施した。 
3 育成経過
本種の育成は、2004 年、酒造好適米系統「AMS17」を母本に、糯品種「モチモノリ」を父本にして人工交配を行った。 F1~F2世代:現地ほ場において、2005 年に F1を栽培し、翌年に F2雑種集団を養成した。
  
F3世代:2007 年、F3世代をほ場で栽培し、草型、穂相等で12個体、その後、玄米品質により4個体を選抜した。 F4世代:4個別系統を展開し、縞葉枯病、穂いもち等の外観検定及び草型、玄米品質により3系統を選抜した。 F5~F6世代:縞葉枯病等の耐病性検定を継続し、草型が優れ、玄米品質及び心白発現が良好な系統の選抜固定を進めた。F7~F9世代:3系統群を「S7」の交配番号
を付してほ場展開し、草型、玄米品質及び醸造適性で1系統群に「AMS20」の系統番号を付し、現地適応性試験で生産力検定を行い、病障害特性や品質等に醸造適性試験に移行し、ほぼ特性が把握されたので検定を終了した。本県の岐阜・西濃地域での適応性、醸造適性等の検討を重ねた結果、有望と判断し、2014 年3月をもって育成を終了した。 平成 29 年においては F13世代である。
 
Ⅲ 結果及び考察
 
「揖斐の誉」は、倒伏に強く、縞葉枯病抵抗性を有するため、栽培安定性に優れる。また、「ひだほまれ」同様に心白発現率が高い上に、中心にコンパクトに存在するため高精白が可能である。「揖斐の誉」の主要形質別の特性は以下のとお
りである。
 
1 形態的・生態的特性の概要
(1)早晩性
試験地(大野町)における成績では、出穂 期は、「ひだほまれ」より9日遅く、「ハツシモ岐阜 SL」より9日早い。また、成熟期は酒造好適米としての品質維持を踏まえて、「ひだほまれ」より 10 日遅く、「ハツシモ岐阜 SL」より 12 日早い中生種である。  
(2)草 型
   苗の草丈はやや長く、葉身はやや細く、葉色はやや濃く、苗質は良好である。稈長は、「ひだほまれ」よりやや長稈であるが、「ハツシモ岐阜 SL」より5cm 低く、耐倒伏性はやや強である。
(3)穂発芽性
穂発芽性については、「ひだほまれ」のやや易より強いやや難である。
 
図2 「揖斐の誉」の系譜 
 
(4)収量性
      慣行施肥による収量性は、「ハツシモ岐阜SL」よりやや少収で「ひだほまれ」と同等である。
(5)玄米形状・品質
   玄米の形状については、千粒重は「ひだほまれ」と同等~やや小で大粒に属し、粒型は山田錦」より丸く、粒厚は厚く、玄米に光沢を有する。また心白の発現率は、「ひだほまれ」とほぼ同等で高く、心白の大きさは中程度である。特に高温年においては心白がより大きくなる傾向にある中で、粒の中心にコンパクトに存在するため、酒造好適米としての外観品質は安定して良好である。
(6)耐病性
葉いもち及び穂いもちの圃場抵抗性は、「ひだほまれ」と同等~やや弱く、「ハツシモ岐阜 SL」と同程度の‘中’で、紋枯病には稈質が弱く症状が現れやすい。また、縞葉枯病抵抗性を有しており、同病による大きな被害を繰り返してきた地域として抵抗性を有することは、生産性の安定に大きく寄与するものである。
 
2 醸造適性の概要
杉原酒造株式会社を介して、玄米のタンパク質含量、脂肪酸及び精米のタンパク質含量、アミロース含量の分析を行うとともに、搗精による精米歩合試験を実施した。  
(1)精米歩合
   無効精米歩合は、「ひだほまれ」より明らかに低く、精米歩合 60%、精米歩合 50%でともに 10%未満、40%精米でも 10%程度と低く、醸造可能な範囲で問題はない。
(2)粗タンパク質含量
   玄米中の粗タンパク質含量は、「ひだほまれ」、「ハツシモ岐阜 SL」とほぼ同等で「山田錦」よりやや高い。 
以上のように、清酒の官能評価については、データ蓄積が十分ではないが‘すっきりとした風味を醸しており概ね良好’との評価を得ており、高搗精が可能で無効精米歩合も低いことから、吟醸酒、大吟醸酒用向きの酒造適性を有し ていると考えられる。 

  6 段階評価 
  3 現地適応性
  大野町は夏場の最低気温(夜温)が高く、高温障害米が発生しやすい地域で、隣市町の本巣市とともに標高 15m~20m 程度の美濃平坦地の代表的な地域である。この2ヶ所で 2016・2017 年の2ヶ年に亘って調査した結果、収量性は「ハツシモ」よりやや少なかったものの「コシヒカリ」と同程度を示し、病障害の発生もほとんどなく、玄米品質も良好であったことから、「揖斐の誉」は当地域の早生種「コシヒカリ」と晩生種「ハツシモ」の中間熟期にあたり、肥培管理や収穫の際の作業分散の観点からも、当地域における適応性は高いと考えられる。
 
Ⅳ 今後に向けて  
本県の美濃平坦地域は、梅雨明けの7月下旬から8月中旬にかけて全国でも屈指の高夜温が続くことから、これまで「雄町」等の晩生品種が少ロットで栽培された経緯はあるが、大粒で心白を有する酒 造好適米の安定生産は困難であり、本格的な栽培は、ひだほまれ   揖斐の誉   ハツシモ岐阜SL
4 栽培上の留意点
  美濃地域平坦部は、かつて稲縞葉枯病の常習地帯で、縞葉枯病に対する抵抗性を有することで収量性はかなり安定するが、いもち病については圃場抵抗性(Pb-1)についての検証が未だ行われていないため、他品種同様に通常防除に努める。また、草型は良好であるが穂相が穂重型であり倒伏には決して強くないので適性施肥に努め、玄米タンパク質含量が高くなる追肥は控える。作型は、酒造好適米としての粒大の確保、心白の発現、胴割等による品質低下を踏まえ、普
通期栽培(6月上中旬移植)が望ましく、刈遅 れのないよう適期収穫には細心の注意を払う。
 命名の由来
美濃揖斐地域で‘真の地酒づくり’に相応しい酒造好適米として誉ある品種となることを期待して命名した。
(H29 年 10 月 31 日受理 品種登録出願番号 第 32558 号)
 
謝  辞
本品種の育成に当たっては、諸特性の検定・分析について岐阜県農業技術センター作物部並びに岐阜県中山間農業研究所試験研究部の職員諸氏にご協力をいただいたほか、栽培特性把握のための現地実証について松久日出成氏並びに山田豊樹氏の両生産者に、また、玄米分析を含めた醸造適性について杉原酒造株式会社に多大なご協力をいただいた。これら、関係者各位に深く謝意を表する。
 
引用文献
1 大坪義雄,河合靖司,渡部和雄,松永晴夫,野垣正哉,川瀬康夫(1985):水稲酒造好適米新品種「ひだほまれ」の育成,岐阜県高冷地農業試験場研究報告第 3 号
2 秋山裕一(1994):日本酒,岩波書店
3 農林水産省農業研究センター(1995):イネ育種マニュアル,農業研究センター研究資料第 30 号,66-70
4 加藤満,杉浦直樹,辻孝子,中村充,城田雅毅,加藤恭宏,船生岳人,工藤悟,加藤博美,澤田恭彦,鈴木敏夫,釈一郎,井上正勝,山本晃司,伊藤彰敏(2011):酒造好適米新品種「夢吟香」の育成,愛知農総試研報 43,17-24
されなかった。また、飛騨地域の酒造業者にニーズの高い本県育成の「ひだほまれ」は中山間地域向けの酒造好適米であり、美濃平坦地での栽培は 困難であった。今回、美濃地域の酒造業者が要望する地元産酒造好適米による仕込み、特に吟醸酒の製造に可能性のある「揖斐の誉」を育成したことは、美濃平坦地における、新たな酒づくりの方向性と水稲栽 培の多様化に寄与するものである。
「揖斐の誉」は、倒伏に強く、縞葉枯病抵抗性を有するため、栽培安定性に優れる。また、「ひだほまれ」同様に心白発現率が高い上に、中心にコンパクトに存在するため高精白が可能である。しかし、酒造好適米としてはタンパク質含量が
やや高い。また、吸水性にバラツキがあり麹の出来に左右するほか、「揖斐の誉」と酵母との相性や温度管理を含めた酒づくりの手法など、まだまだ品種としての改良の余地は多く残されている。 当面は、杉原酒造(株)の大野町及び本巣市の地元生産者との契約栽培により、「揖斐の誉」の醸造特性に合った‘地酒づくり’を推進する過程において、中生種である酒造好適米「揖斐の誉」の外観品質とともに高い醸造適性かつ安定した収量性を確保できる栽培方法について、施肥方法や収穫時期、乾燥調製などさらなる検証と技術的改良を加えていく必要がある。以上、‘米づくりから酒づくりまで、とことん地元にこだわった真の地酒づくり’をコンセプトに、将来に亘って美濃地方における旨い地酒造りが拡大し、米生産者のさらなる経営の多様化、安 定化が図られることを期待したい。 
 

揖斐の誉 栽培写真


杉原酒造TV

※USTREMによる、LIVE発信、現在検討中です。お待ちください。


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